最終更新日:2008/10/29
履行の着手
りこうのちゃくしゅわが国の売買契約等では、解約手付が交付されることが多い。解約手付とは、手付の放棄(または手付の倍額の償還)によって、任意に契約を解除することができるという手付のことである(民法第557条第1項)。
具体的には、売買契約成立時に買い主が売り主に解約手付を交付する。買い主は手付を放棄すればいつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよい(これを「手付流し」という)。
また売り主も、手付の倍額を買い主に償還することで、いつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよい(これは「手付倍返し」という)。
このように手付相当額の出費を負担するだけで、いつでも売買契約関係から離脱できるのである。
しかし、このような手付流し・手付倍返しによる契約解除はいつまでも可能なのではなく、契約の相手方が「履行の着手」を行なった時点からはこのような契約解除ができなくなるとされている(民法第557条第1項)。そのため、この「履行の着手」が重要な意味を持つことになる。
過去の判例では、「履行の着手」とは「客観的に外部から認識できるような形で、契約の履行行為の一部をなしたこと、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたこと」と解釈されている(最高裁判決昭和40年11月24日)。
具体的に言えば、単に物を引き渡すための「準備」や、代金を支払うための「準備」をしただけでは「履行の着手」には該当しないと考えられている。
実際に履行の着手があったと判断された事例には、「他人物売買において、売り主が他人の不動産を取得して登記を得たこと」、「買い主が代金の用意をして、売り主に物の引渡しをするように催告したこと」などがある。
なお手付流し・手付倍返しによる契約解除は、契約の「相手方」が履行の着手を行った時点からは契約解除ができなくなる。従って「自分が履行の着手をしたが、相手方は履行の着手をしていない」状態であれば、自分から手付流し・手付倍返しによる契約解除を行なうことは可能である。
解約手付
通常、契約を解除するためには、解除の理由が必要である。
具体的には、「法律上の解除原因の発生(債務不履行、売り主の担保責任)」か、または「契約成立後に当事者が解除に合意したこと(合意解除)」のどちらかが必要である。
しかしわが国では、手付を交付することにより、契約を解除する権利を当事者が保持しつづけるという手法を用いることが非常に多い。
これは、売買契約成立時に買い主が売り主に手付を交付し、買い主は手付を放棄すればいつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよいというものである(これを「手付流し」という)。
また売り主も、手付の倍額を買い主に償還することで、いつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよい(これは「手付倍返し」という)。このように手付相当額の出費を負担するだけで、いつでも売買契約関係から離脱できるのである。
また判例(昭和24年10月4日最高裁判決)によると、「契約において特に定めがない場合には、手付は解約手付であると推定する」こととなっている。つまり、契約上単に「手付」とされた場合には、反証がない限り、解約手付として扱われる判例が確立している。
宅地建物取引業法ではこの判例より更に進んで、売り主が宅地建物取引業者である売買契約では、契約内容の如何にかかわらず、手付は必ず「解約手付」の性質を与えられると規定している(宅地建物取引業法第39条第2項)。これを解約手付性の付与という。
なお、手付流し・手付倍返しによる契約解除はいつまでも可能ではなく、契約の相手方が「履行の着手」を行なった時点からは、このような契約解除ができなくなるとされている(詳しくは履行の着手へ)。