最終更新日:2008/10/29
地下水汚染の無過失責任
ちかすいおせんのむかしつせきにん水質汚濁防止法では、特定の有害物質を含む水の排出や地下への浸透により、人の生命・身体に損害を与えた場合には、事業者に過失がない場合であっても、事業者に損害賠償の責任を負わせることとしている(水質汚濁防止法第19条〜第20条の3)。
この無過失責任を定めた規定が適用される場面としては、有害物質を使用する工場・事業場が有害物質を含む水を公共用水域(河川・湖沼・沿岸等)に排出した場合と、地下に浸透させた場合がありうるが、公共用水域への水の排出により健康被害が発生する状況は今日ではほとんどないと考えられるので、主に地下への浸透により地下水が汚染された状況においてこの無過失責任の規定が実際に適用されると考えることができる。
この水質汚濁防止法の無過失責任の規定において重要な点は次の通りである。
1)事業者に過失がなくても事業者に損害賠償責任が発生する。従って、被害を受けた者は、有害物質を含む水の地下への浸透と健康被害との間の因果関係を立証すれば、損害賠償を請求することが可能になる。ただし汚染発生源から離れた場所において、地下水の移動により健康被害が発生した場合には、この因果関係の立証は困難になるケースが多いと思われる。
2)水質汚濁防止法の無過失責任の規定は、健康被害についてのみ適用がある。従って地下水の汚染により土地の価格が低下する等の財産上の損害については、水質汚濁防止法は適用されないので、通常どおり民法の不法行為責任(民法709条以下)を追及することとなる。
3)有害物質とは、水質汚濁防止法に定める26種類の物質に限定されている(詳しくは「有害物質」へ)。従ってそれ以外の物質による健康被害については通常どおり民法の不法行為責任(民法709条以下)を追及することとなる。
水質汚濁防止法
水質汚濁防止法の概要は次の通り。
1)生活環境に被害を生ずる恐れがあるような汚水等を排出し、または有害物質を使用する等の理由により、水質汚染を招く危険のある施設を「特定施設」と定義する(水質汚濁防止法第2条)
2)特定施設を設置する工場・事業場等を「特定事業場」と定義する(同法第5条)
3)特定施設を設置する者・使用廃止する者に特定施設設置等の届出を義務付ける(同法第5条等)
4)特定事業場に、排水基準の遵守を義務付ける(同法第3条)
5)指定地域内の特定事業場に、水質汚濁の総量規制を実施する(同法第4条の5)
6)特定事業場に、排出水および特定地下浸透水の汚染状態の測定を義務付ける(同法第4条の5)
7)有害物質を使用する特定事業場において、特定地下浸透水が有害物質を含んでいるとき、その特定地下浸透水を地下に浸透させることを禁止する(同法第12条の3)
8)上記7)に違反して、特定事業場の事業者が、有害物質を含む特定地下浸透水を地下に浸透させた場合において、都道府県知事は地下水の水質浄化を命令することができる。これを地下水の水質浄化の措置命令という(同法第14条の3、同法施行規則第9条の3、同法施行規則別表)
9)都道府県知事に地下水の水質を常時監視することを義務付けた。これにより平成元年以降、毎年全国の約1万2千の井戸について水質調査が実施されている。これを地下水モニタリングという(同法第15条〜第17条)
10)工場・事業場から有害物質を含む水を排出し、または有害物質を含む水を地下に浸透させた場合には、工場・事業場の事業者に過失がなくても、工場・事業場の事業者に健康被害の損害賠償の責任を負わせる(同法第19条〜第20条の3)(詳しくは「地下水汚染の無過失責任」へ)
有害物質
水質汚濁防止法では、人の健康に被害を生ずる恐れが大きい物質として、水質汚濁防止法施行令第2条で次の26種類の物質を指定している。
これら26種類の物質から「アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物」を除外した25種類の物質は、土壌汚染対策法の特定有害物質に該当する。
なお、ダイオキシン類については、ダイオキシン類対策特別措置法において排出基準が定められているので、水質汚濁防止法の有害物質からは除外されている。
水質汚濁防止法の有害物質は具体的には次の通りである(平成14年12月13日以降)。
1.カドミウムおよびその化合物
2.シアン化合物
3.有機燐化合物(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメトン、EPN)
4.鉛およびその化合物
5.六価クロム化合物
6.砒素およびその化合物
7.水銀およびアルキル水銀その他の水銀化合物
8.ポリ塩化ビフェニル
9.トリクロロエチレン
10.テトラクロロエチレン
11.ジクロロメタン
12.四塩化炭素
13. 1・2―ジクロロエタン
14. 1・1―ジクロロエチレン
15.シス―1・2―ジクロロエチレン
16. 1・1・1―トリクロロエタン
17. 1・1・2―トリクロロエタン
18. 1・3―ジクロロプロペン
19. テトラメチルチウラムジスルフイド(別名チウラム)
20. 2―クロロ―4・6―ビス(エチルアミノ)―s―トリアジン(別名シマジン)
21. s―4―クロロベンジル=N.N―ジエチルチオカルバマート(別名チオベンカルブ)
22. ベンゼン
23. セレンおよびその化合物
24. ほう素およびその化合物
25. ふっ素およびその化合物
26. アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物