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最終更新日:2017/11/20

倒産隔離

とうさんかくり

 不動産の証券化において、オリジネーター(原資産保有者)が倒産した場合に、資産の譲受人となるビークル(証券化対象の資産を保有するSPC等)がその資産に関する権利の行使をオリジネーターの債権者や管財人から妨げられないようにすること。英語ではBankruptcy Remote(バンクラプシー・リモート)という。

 英国領ケイマン諸島等で設立されたSPC(ケイマンSPC)と英米法特有の制度である慈善信託(チャリタブルトラスト)及び信託宣言を組み合わせ、慈善信託が形式上の株主となったケイマンSPCが日本国内にSPC(国内SPC)を設立し、その国内SPCが証券化対象資産を保有することによって、オリジネーターとの関係を遮断する方法などがある。近時は、有限責任中間法人が用いられるケースも多い。

-- 関連用語 --
オリジネーター(Originator)

不動産証券化において、保有する不動産、不動産の信託受益権、不動産収益を裏付けとした貸出債権等を、SPC等の証券化を行う発行主体(ビークル)に譲渡する者のこと。原資産保有者、資産譲渡人ともいう。不動産以外の資産(金銭の貸出債権等)を原資産とするケースもある。

オリジネーターは自らが保有している不動産・債権を譲渡して資金調達を行う資金調達者でもある。

ビークル(Vehicle)

 英語では「乗り物」や「媒体」といった意味で、不動産等の資産の証券化に関して使われる場合は、証券発行主体となる器のことを指す。SPV(Special(Specific) Purpose Vehicle)と表記されることもある。SPC等の会社形態や商法上の匿名組合、民法上の任意組合などの組合形態、あるいは特定目的信託等がある。

 ビークルを介して証券化対象資産と投資家が結び付けられ、投資家は証券化対象資産から得られるキャッシュフロー等を得ることができる。

 オリジネーター(原資産保有者)が倒産した場合でも、その影響を受けない倒産隔離の仕組みを組成するためにビークルは利用される。

ケイマンSPC

英国領ケイマン諸島に設立される特別目的会社のこと。不動産証券化において、原資産の保有者であるオリジネーターと国内SPCとの倒産隔離を図るための仕組みとして慈善信託と組み合わせて利用されることが多い。

ケイマンSPCは、オリジネーター等から依頼を受けた弁護士などが出資して設立するが、その普通株式は海外の信託会社に無償譲渡され、同時に信託会社が信託宣言という英米法特有の制度を利用して、普通株式の慈善信託を行う。その後、新たに慈善信託が株主となったケイマンSPCが出資して国内に特別目的会社(国内SPC)を設立する。

国内SPCの経営は、海外の慈善信託の影響だけを受けることになるが、ケイマンSPCの当初の出資者はその普通株式を無償譲渡し慈善信託しているため、国内SPCの経営に恣意的な影響を及ぼすことができない仕組みとなり、実質的にオリジネーターから倒産隔離されることになる。

ケイマンSPCを利用する理由は、法人税・源泉税が非課税、設立事務手続きの利便性、政情の安定、慈善信託等を用いた倒産隔離が比較的容易なことなどである。

慈善信託

チャリタブルトラスト(Charitable Trust)のこと。

不動産証券化にあたり、海外に設立されたSPCの普通株式を無償譲渡された海外の信託会社が、英米法特有の制度である信託宣言を利用して、自ら委託者兼受託者となり、信託期間満了時に、海外SPCの残余財産を慈善団体に寄付することを契約する信託。

商法上の株式会社や有限会社等を利用して不動産証券化を行う場合、慈善信託とケイマンSPCを組み合わせて倒産隔離を図ることが多い。