最終更新日:2023/10/24
敷地利用権と専有部分の一体化
しきちりようけんとせんゆうぶぶんのいったいか分譲マンションなどの区分所有建物において、区分所有者が土地に関する権利と建物に関する権利を切り離して売却すること等が禁止されていることを指す。
分譲マンションなどの区分所有建物では、区分所有者は次の3つの権利を持っている。
1.専有部分の所有権
2.共用部分の共有持分
3.土地の共有持分(これを敷地利用権という)
この3つの権利のうち、1.の専有部分の所有権と3.の敷地利用権を分離して処分することは、区分所有法により原則的に禁止されている(区分所有法第22条)。(なお1.と2.を分離することも区分所有法第15条により原則的に禁止されている)
ただし管理規約で区分所有法第22条とは異なる定めを置くこともできるが、通常は管理規約において「分離して処分してはならない」という定めを設けている。
この結果、例えばある区分所有者が、敷地利用権だけを第三者に売却しようとしても、区分所有法および管理規約の定めにより、売却することができないことになる。
またある区分所有者が、借入金の担保とするために、敷地利用権だけに抵当権を設定しようとしても、区分所有法および管理規約の定めにより、抵当権設定ができないことになる。
このような「敷地利用権と専有部分の一体化」は1983(昭和58)年の区分所有法の大改正により導入された制度である(施行は1984(昭和59)年1月1日)。
それ以前は、区分所有建物でも、建物の権利と土地の権利を別々に処分することが可能であっため、分譲マンションの土地登記簿には、各住戸の売買や担保設定のたびに所有権移転登記や抵当権設定登記が記入された。
そのため住戸数が多い場合には、マンションの土地登記簿の記載内容が膨大となり、登記事務の煩雑化を招き、記載ミスや読み間違いが起きるという事態になっていた。
こうした問題に対処するため、「敷地利用権と専有部分の一体化」が導入された。これにより、敷地利用権が常に専有部分と一緒に売買等されることになったので、区分所有建物の建物登記簿のみに所有権移転登記等を記載し、土地登記簿にはこれらの登記を記載しない扱いとした(不動産登記法第46条「敷地権である旨の登記」)。
こうして土地登記簿への記載が全面的に省略された結果、登記事務の大幅な簡略化が実現したのである。
区分所有建物
区分所有建物となるためには次の2つの要件を満たすことが必要である。
1.建物の各部分に構造上の独立性があること
これは、建物の各部分が他の部分と壁等で完全に遮断されていることを指している。ふすま、障子、間仕切りなどによる遮断では足りない。
2.建物の各部分に利用上の独立性があること
これは、建物の各部分が、他の部分から完全に独立して、用途を果たすことを意味している。例えば居住用の建物であれば、独立した各部分がそれぞれ一つの住居として使用可能であるということである。
上記1.と2.を満たすような建物の各部分について、それぞれ別個の所有権が成立しているとき、その建物は「区分所有建物」と呼ばれる。区分所有建物については、民法の特別法である区分所有法が適用される。
代表的なものとしては分譲マンションが区分所有建物である。しかし分譲マンションに限らず、オフィスビル・商業店舗・倉庫等であっても、上記1.と2.を満たし、建物の独立した各部分について別個の所有権が成立しているならば区分所有建物となる。
なお区分所有建物では、建物の独立した各部分は「専有部分」と呼ばれる。
また、この専有部分を所有する者のことを「区分所有者」という。
廊下・エレベータ・階段などのように区分所有者が共同で利用する建物の部分は「共用部分」と呼ばれ、区分所有者が共有する。
また建物の敷地も、区分所有者の共有となる(ただし土地権利が借地権である場合には「準共有」となる)。このとき区分所有者が取得している敷地の共有持分は「敷地利用権」と呼ばれる。
従って区分所有建物においては、区分所有者は、専有部分の所有権、共用部分の共有持分、敷地の共有持分という3種類の権利を持っていることになる。
区分所有者
建物
専有部分
分譲マンションの場合でいえば、各住戸の内部が「専有部分」に該当する。
この反対に、区分所有建物において区分所有者が全員で共有している部分(例えば廊下・階段・バルコニーなど)は「共用部分」と呼ばれる。
所有権
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
共用部分
具体的には、次の3つのものが「共用部分」である(区分所有法第2条)。
1.その性質上区分所有者が共同で使用する部分(廊下、階段、エレベーター、エントランス、バルコニー、外壁など)
2.専有部分に属さない建物の付属物(専有部分の外部にある電気・ガス・水道設備など)
3.本来は専有部分となることができるが、管理規約の定めにより共用部分とされたもの(管理人室・集会室など)
このような1.〜3.の共用部分は、原則として区分所有者全員の共有である(区分所有法第11条)。
また共用部分は共有であるため、各区分所有者はそれぞれ共用部分に関する共有持分を持っていることになる。
この共有持分の割合は、原則として、専有部分の床面積(専有面積)の割合に等しい(区分所有法第14条)が、この割合は規約により変えることができる。
また区分所有者は、その共用部分の共有持分のみを自由に売却等することはできない(区分所有法第15条)。
共有持分
敷地利用権
従って、敷地利用権とは、区分所有者が持っている「土地の共有持分」といい換えることができる。
区分所有法
区分所有建物とは、分譲マンションのように独立した各部分から構成されている建物のことであり、通常の建物に比べて所有関係が複雑であり、所有者相互の利害関係を調整する必要性が高い。
このため、1962(昭和37)年に民法の特別法として区分所有法が制定された。これにより、専有部分・共用部分・建物の敷地に関する権利関係の明確化が図られ、規約・集会に関する法制度が整備された。
その後、分譲マンションが急速に普及したことに伴って、分譲マンションの管理運営に関するトラブルが生じたり、不動産登記事務が煩雑になるなどの問題点が生じたので、1983(昭和58)年に区分所有法が大幅に改正された。このときに、区分所有者が当然に管理組合を構成すること、集会での多数決主義、建替え制度、敷地利用権と専有部分の一体化などが定められた。
また、1995(平成7)年の阪神・淡路大震災において被災マンションの建て替えが課題となったこと、老朽化したマンションの建て替えや大規模修繕を円滑に行なう必要が生じたことから、2002(平成14)年には、復旧決議における買取り請求規定の整備、建替え決議要件の緩和、団地内建物の建替え承認決議の創設などが措置された。
なお、マンションの建て替え等に関しては、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(略称「マンション建替え円滑化法」)」において、合意形成や権利調整についての特別の規定が定められている。
管理規約(区分所有法による〜)
2.共用部分の範囲
3.敷地・付属施設・共用部分に関する各区分所有者の持つ共有持分の割合
4.専用使用権の範囲
5.敷地利用権と専有部分の分離処分の可否
6.使用細則(使用に関する詳細な規則)の設定
7.集会、管理組合、理事会、会計等に関する事項 なお、管理規約は集会で設定されるべきものであるが、マンション分譲業者が最初にマンションの全部を所有している場合には、次の事項に限っては、公正証書で定めることによって、集会を経ずに管理規約を設定することができるとされている。
1.規約共用部分
2.規約敷地
3.専有部分と敷地利用権の分離処分の可否
4.敷地利用権の共有持分の割合