時効
じこう
ある事実状態が一定期間継続した場合に、そのことを尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという制度を「時効」という。
時効は「取得時効」と「消滅時効」に分かれる。取得時効は所有権、賃借権その他の権利を取得する制度であり、消滅時効は債権、用益物権、担保物件が消滅するという制度である。
時効は時間の経過により完成するものであるが、当事者が時効の完成により利益を受ける旨を主張すること(これを援用「えんよう」という)によって初めて、時効の効果が発生する。
また時効の利益(時効の完成によって当事者が受ける利益)は、時効が完成した後で放棄することができる。これを時効利益の放棄という。
また時効は、時効の完成によって不利益を受ける者が一定の行為を行なうことにより、時効の完成を妨げることができる。これを時効の中断という。
取得時効
一定期間、所有の意思をもって、他人の物を占有したとき、その物の所有権などの権利を、取得することができる(民法第162条)。
このように占有という事実状態が継続することにより、権利を取得できる時効を取得時効という。
取得時効は期間10年で完成する短期取得時効と、期間20年で完成する長期取得時効に分かれる。
消滅時効
一定期間、権利を行使しないという事実状態が継続することにより、債権などの権利が消滅するという時効を消滅時効という。消滅時効にかかる権利は債権、用益物権、担保物件であるが、権利の性質により消滅時効が完成するまでの期間はさまざまである。
普通の金銭債権は10年間行使しないことにより消滅時効によって消滅する(民法第167条第1項)。また用益物権は20年行使しないことにより消滅する(民法第167条第2項)。
またその性質により短期で消滅させるべき債権は5年、3年、2年、1年の短期消滅時効により消滅する(民法第168条から174条)。
債権
人がある人に対して給付を要求することができるという権利を債権という。
時効利益の放棄
時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成による利益を放棄することである。
時効利益の放棄は、時効が完成する前に放棄することができない(民法第146条)。これは特に、債権の消滅時効において、債権者が債務者の窮状に乗じて、債務者に時効利益の放棄を事前に強いることを防止するための規定である。
ただし時効完成後に放棄することは自由である。なお時効利益の放棄と類似した問題として「時効完成後の債務の承認」がある。
時効利益の放棄は「相対効」である。つまり時効を援用できる者(援用権者)が複数いる場合に、一人が時効利益を放棄してしまっても、他の者はそれに関係なく時効を援用できるということである。
なお債務の保証については、時効利益の放棄は次のように解釈されている。
1)主債務者が時効利益を放棄し、その後に保証人が時効を援用した場合
AがBから借金をし、その債務をCが保証した場合、AB間の債務を主債務といい、BC間の債務を保証債務という(保証債務は、主債務が弁済されないときに、補充的に主債務の弁済されない部分を弁済するという債務である)。
ここで主債務者Aは借金が消滅時効で消滅したにもかかわらず、時効利益を放棄したのであるから、主債務は有効に残存している。しかし時効利益の放棄は「相対効」であるから、保証人Cは独自に主債務の消滅を主張してよい(これは保証債務の消滅を意味する)。
2)主債務者が時効を援用し、その後に保証人が時効利益を放棄した場合
時効の援用は「相対効」を持つに過ぎないから、Aの時効の援用は、Cに影響しないのが原則であるが、保証債務は主債務の消滅により自動的に消滅するという性質(附従性)を持つので、この附従性を通じて、Aの時効の援用は、Cの保証債務を消滅させる。その結果、保証人Cは時効利益を放棄することは不可能となる(消滅してしまった保証債務を、時効利益の放棄により復活させることはできない)。
従ってこの場合、保証人Cが時効利益を放棄する旨の意思表示をしたことは無意味であり、仮にCがBに対して債務を支払ったならば、その支払い分は本来は不当利得返還請求によりCに返還されるべきである(ただし民法第705条の非債弁済の規定により、Cは返還を請求することができないという結論になる)。
時効の中断
時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、その事実状態を尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという法制度である。
この事実状態が継続する必要があるとされる一定の期間を「時効期間」といい、時効の種類により時効期間が設けられている(例えば所有権の短期取得時効の時効期間は10年、所有権の長期取得時効の時効期間は20年、普通の金銭債権の消滅時効の時効期間は10年である)。
このような時効期間が進行している途中において、それまで継続してきた事実状態を妨げるような事実や行為が発生した場合には、もはや事実状態の継続が失われたことになるので、それまで進行してきた時効期間はすべて効力を失うことになる。
このように、一定の事実や行為によって、それまで進行してきた時効期間が効力を失うことを「時効の中断」と呼んでいる(時効の進行が「ふりだしに戻る」ということである)。
なお、時効を中断させるような事実や行為は「時効の中断事由」と呼ばれている。